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三島市の公開型GISを
触ってみた

企業データ活用30年の物差しで見る、市の地図システム

五十嵐こと ── AIプロダクトアーキテクト
専門:データに基づく意思決定戦略/地図・位置情報データ活用戦略
公益財団法人静岡県産業振興財団登録 専門家
2026年7月16日 公開

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はじめに 三島市が今年3月から、道路や水道の台帳図をウェブで見られるようにした。公開型GISと呼ばれるものだ。実際に触ってみたので、気づいたことを書き留めておきたい。先に断っておくと、これはあくまで外から見える範囲の話である。市役所の中でどんなシステムが動いているのか、私は知らない。誰でも開ける画面を開いて、そこに見えたことだけを書く。

公開されているのは4種類。道路台帳図、水道台帳図、下水道台帳図、住居表示街区図である。報道によると、地図に関する問い合わせが建設業者や不動産業者から年間9,600件ほどあり、窓口での対応に3,200時間かかっていたという。職員が1年半、地図を出し続けている計算になる。それがウェブに置くだけで消えるのだから、狙いとしてはまったく正しいし、効果も出るだろう。

だから以下に書くのは、この地図への批判ではない。この地図を見て、考えたことである。

企業は30年かけて何をしてきたか

私は30年間、企業のデータ活用の仕事をしてきた。振り返ってみると、大企業がやってきたことには順番がある。

最初に取り組んだのは、データを取り出せるようにすることだった。1990年代、売上は営業のシステムの中に、在庫は工場のシステムの中に、顧客情報はまた別の場所に、という状態を、なんとか一箇所に集めて取り出せる形にする。今から思えばそれだけのことに、各社が何年もかけた。しかし、そのそれだけのことが革命だった。

取り出せるようになると、次は分析が始まる。比べる、集計する、予測する。やがて分析結果が経営判断に使われるようになる。どこに投資するか、何をやめるか、数字を見て決めるようになる。さらに進むと、判断が日々の業務に組み込まれる。発注も価格も人の配置も、現場が数字で回るようになる。そして今は、その判断そのものを自動化しようとしている。人を介さずに、システムが決める。AIというのは、この30年の道のりの最後に出てきたものなのだ。

で、三島の地図である。

この道のりのどこにいるのかといえば、最初の段階の手前である。データを取り出せないからだ。

一回のクリックで、一個

下水道の地図で、マンホールをクリックしてみる。すると、こう表示される。

項目表示された内容
人孔種別特1号
深さ2.16
地盤高23.87
処理分区中央分区
幹線流域中央汚水1号幹線
排水方式分流(汚水)
幹枝区分枝線
施工年度1983
路線番号2154-1-9

正直、驚いた。深さ、地面の高さ、汚水がどの幹線に流れていくのか、そしていつ埋設された管なのか。昭和58年。43年前である。中身は濃い。これだけでも判断の材料になる。

ただし、一回クリックして、一個ずつである。

画面に見えている範囲だけでも、マンホールは数十個ある。市内全体なら数千はあるだろう。昭和58年の管が市内のどこにどれだけあるのかを知りたければ、数千回クリックするしかない。集計はできない。地図に色を塗って眺めることもできない。見えているのに、取り出せないのである。

もうひとつある。道路の地図を開いているとき、水道の地図を重ねることはできない。4種類の地図は、それぞれ別の画面として立ち上がる。4枚の紙が、別々の机に置いてあるようなものだ。

なぜそうなっているのかは、所管課を見ると想像がつく。住居表示は市民課、道路は土木課、水道は水道課、下水道は下水道課。システムの形が、組織の形をそのまま写しているのだ。窓口に道路台帳を取りに来る人は道路台帳しか必要としないのだから、4枚がバラバラでも何も困らない。窓口の代わりという目的に対しては、正しい設計なのである。

課によって作り込みが違う

細かい話をひとつしたい。

下水道の画面に出てくる項目名は、先に示した通り、すべて日本語である。台帳としてきちんと設計されている。

ところが住居表示の画面を開くと、項目名がローマ字に変わる。shimei、choumoku、oazacode、gaikufugou。さらに shape_length、shape_area という項目まで付いている。

これには理由がある。地図データの受け渡しに世界中で使われている古いファイル形式があり、項目名は半角10文字までという制約があるのだ。日本語は入らない。そこで業界では、日本語をローマ字に直し、10文字に切り詰めて名前を付ける。gaikufugou(街区符号)は、数えるとちょうど10文字である。shape_length と shape_area は、その形式が自動的に付ける長さと面積の項目だ。

つまり住居表示のデータは、どこかで作られたファイルが、項目名も直されないまま載っているということだ。一方の下水道は、台帳として作り込まれている。同じシステムの上でも、課によって扱いがまるで違うのである。

これも責めるべき話ではない。予算がついた業務から順に整備されていくのだから、どの自治体でもこうなる。ただ、作り込みの揃っていないデータ同士は、突き合わせることができない。

それでも、番号は振ってある

ここまでは「無いもの」の話だった。ここからは「有るもの」の話をしたい。

住居表示の街区をクリックすると、こう表示される。

項目表示された内容
id30201001
町丁目大宮町2丁目
大字コード302
街区符号1
面積46551.72 ㎡

この 30201001 という番号は、大字コード302と街区符号1を機械的に組み合わせて作られている。行き当たりばったりの番号ではなく、体系として設計されているのだ。しかも面積まで確定している。

住居表示の街区というのは、法律に基づいて行政が定めた公式の区画である。三島市という空間を、公式に、漏れなく分割した単位だ。その一つひとつに番号が振られているということは、この番号に他のデータをぶら下げられるということでもある。実際、大字コードは国勢調査の地域別統計とそのまま突き合わせられる。人口、世帯、年齢構成。国が無償で公表しているデータが、この番号でつながるのだ。

道路にも番号がある。112014、116005。橋にも一本ずつ名前と番号が付いている。8834無名橋0365、8692御殿橋0122。下水道には施工年度と地面の高さが入っている。水は低い方へ流れるのだから、高さが分かれば、どこに水が溜まるのかは計算できる。

場所を示す番号があり、年度があり、高さがある。

三島市は、これをすでに持っているのだ。ただ、使っていないだけで。

足りないものは二つ

一つは、まとめて取り出す仕組みがないことだ。クリックで一個ずつではなく、全部を一度に取り出せるようになれば、30年前に大企業が踏み出した最初の段階に入れる。

もう一つは、載っていないデータである。人がどこを歩いているのか。建物がどんな状態なのか。この二つは、おそらく市が持っていない。というより、持っている自治体自体がほとんどない。

この二つが揃えば、答えられるようになる問いがある。昭和58年の管は、どこにどれだけあるのか。その沿道には今何人が住んでいて、20年後には何人が住んでいるのか。そこは水が溜まる場所なのか。人は実際に、どこを歩いているのか。

要するにどれも、「どこから手をつけるか」という問いなのだ。すべてを更新するだけの資金は、どこの市にもない。だから順番を決めるしかなく、順番を決めるには材料が要る。

測れるものを測ってから、測れないもので決める

私は『ムダの方法論』という本で、数字にならないものについて書いた。判断、関係、長い時間軸、測れないもの。そうしたものこそが組織を支えていて、AIにはそれが見えない、という話である。

データで測れと言っている本稿と矛盾するではないか、と思われるかもしれない。

矛盾はしない。これは順序の話なのだ。

測れるものを測りきって、はじめて、測れないものが何なのかが分かる。測れるものを測らないまま「総合的に判断した」と言うのなら、それは判断ではなく勘である。勘は説明できない。そして説明できないものは、通らない。

三島市が持っているのは、測れるものだ。施工年度、地面の高さ、街区の面積、道路の番号。その測れるものが、測られていない。その状態で賑わいだ、愛着だ、街の記憶だと語っても、根拠がないことの言い換えにしかならない。

測れるものを測る。そのうえで、測れないもので決める。決めるのは人間であって、データではない。決める人の前に、材料をすべて並べる。それだけのことを、まだ誰もやっていないのである。

最後に

繰り返すが、これは外から見た話である。市役所の中では4枚を重ねられるシステムが動いているのかもしれないし、集計も分析もとうに済ませているのかもしれない。それは外からは分からない。

ただ、市民に見えるのはこの4枚の地図であり、市民に見せているものこそが、その組織のデータに対する考え方をいちばん正直に表している。

窓口の3,200時間を減らすための地図。第一歩としては正しい。次に問われるのは、この地図で何を決めるか、だと思う。

※ 本稿で言及したのは、三島市地図情報提供システム(公開型GIS)。2026年3月1日運用開始。観察は2026年7月時点のもの。

本稿の取り扱いについて

三島市の公開型GISを触ってみた/五十嵐こと(2026年7月16日 公開)

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